10年前に踏み止まらなければ、幸せに逝けたのだろうか。
こんなにやきもきするくらいなら、手を離さなければよかった。




Hot Chocolate





師匠でさえ数えるほどしか使わなかったという魔法を、回数を数えるのも億劫になるほど使っていた事実に気付いた時、おれは残された時間のすべてを使ってでもダイに一目会いたいと思った。
魔界でひとり闘いに明け暮れていた俺は、
メルルと別れ、マァムと別れ、20歳になったおれには、確かに魔界に行くだけの知識も魔力(ちから)もあった。
いつかポップが俺を見付けに来てくれることを心のどこかで信じていた。
しかしおれは魔界への扉をひらけなかった。
だからあの日魔界と地上を隔てる扉が鳴動し、しかしまた何事もなく静まり返った時、
いや、ひらかなかったのだ。
おれは、あの時ポップを置いて行った罰を受けたのだと思った。
開こうとした瞬間に、頭をよぎったダイの泣き顔。
自ら扉を開けて、追いかけたい気持ちはあったけれど。
おれが一度死に、奇跡的に蘇った時の泣きじゃくる顔、そして奴の親父さん(バラン)が死んだ後の焦燥の色濃い顔…
17になったばかりのおれはまだ、
魔界の扉を開く代償は何年分だろう。
魔界と地上を自由に行き来できるほど力を使いこなせていなかったし、
一度会えば、離れることはできなくなるだろう。
地上で、みんなに会って、引き留められてしまうのが怖かった。
死に顔を見せるために、あいつを泣かせるために、おれは魔界に行きたいわけじゃない。
おれには、地上に帰るつもりはなかったから。
会えないけど、きっとどこかで元気にやっているんだと思おう。思わせよう。
だから、繋がれた絆 −ポップは気付いてないかもしれないけど− を頼りに待つことにしたんだ。
それは勇気か、臆病か…
ポップの来訪を、もしくはおれ自ら迎えに行けるようになるその時を…
とにかく、おれは自らダイとの再会を放棄したのだった。
おれの中には、あいつと一生会わないなんて選択肢はこれっぽちもなかった。




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「その結末がこれ、か…」
あれから10年。
人気のない(いわや)
魔界の扉が震えることはなかった。
師匠の隠れ家を彷彿とさせる仮住まいで、己の吐き出す血にまみれながら、ひとり死を迎える。
あの、見掛けと言動によらず強情張りな大魔道士は、
あの時マァムと別れなければ。
本気で誰にも見とられることなく死ぬつもりのようだった。
あの時扉を開いていたら。
…ポップは本当にヤサシイよね。
見栄っぱりで、核心には触れさせないくせに構われたがりなおれと、広い愛でしか包めないくせに心配したがりなマァムは、仲間以上恋人未満な関係を2年とちょっとばかり続けて結局別れた。
いつも自分をずたぼろにしながらおれたちにいろいろ与えてくれて。
マァムはきっと気付いていた。
でもおれはもうそんなの欲しくないんだ。
身体の不調をおしてなおダイ捜索の旅を続けていたこと。
だから、お前の最期のヤサシサは、絶対受け取ってやらない。
おれがそれを頑なに言わなかったことが引金になった。
この扉を開けて、お前自身を受け取ると決めたから。







あぁなんだ、やっぱおれのせいか。
自嘲に歪む口からもお構いなしに赤い液体は溢れてきて、意識が緩やかに遠のいて行く中、おれは幸せな夢を見た。







ポップ、またおれを置いて逝くつもりだったの?
ちっぽけでやせっぽちなおれの身体を、軽々と抱き上げる27歳のダイ。
おれはあの時誓ったんだよ、もう二度とお前を死なせないって。
精悍な顔も低い声も、おれの知らないものだったけど、ダイだとわかった。
だから、こっちに来てくれて全然構わなかったんだ。
冷めていく背中に回された温かな腕も、口をふさぐ柔らかな吐息も、喉に流し込まれる錆びたHot Chocolateも。
禁呪でどれだけ生命(いのち)が縮まったとしても、おれの側に来てさえくれれば。
夢で構わないから。
おれが命をあげるから。
覚めないでいて。
絶対に、逝かせない。


Never END

あとがき。

…何が悲しくてしょっぱなからこんな血塗れ書いてるのか自分…だって殺りメイツなんだもん。
タイトルに不似合いな殺伐っぷりで申し訳ない。
ちなみに本人ダイポップのつもりで書いてます。
「どこが?」って思った方は行間を読んでみてください…紙媒体ではできないことがやりたかっただけともいう(^^;)
読んだけどだめですか、そうですか。
精進します。てゆうか原作読みなおせ?
余談ですが、これのネタをちくちく書いていたころ、無性に甘いものが欲しくなってスタバでカフェモカを頼んだことがあったんですけど、あろうことか自分で書いたネタを思い出してしまって…
思い込みというのは非常に恐ろしいもので、鉄錆味の液体を飲んでいるような感覚が抜けませんでした(苦笑)。
※火狐ユーザの方へ。見づらくて申し訳ない。
Written by HAZUMI Kyoka