XXX & Decade
ふたりが魔界に旅立ってから10年。
地上に住まう殆どの者は知る由もなかったが、ひとつの勢力が魔界を束ねつつあった。
その勢力の中心人物は魔族を超える力を持ちながら魔族ではなく、魔界の者ですらないと専らの評判で、彼らを快く思わない者たちからは「地上より来たりし双帝」と呼称されていた。
魔界の民を統べるにあたわない、よそ者の王だということである。
とはいえ、その「地上より来たりし双帝」が魔王に限りなく近い存在になりおおせていることは確かで、彼らにより魔族は初めて穏やかかつ建設的な暮らしというものを手にすることが可能となった。
双帝の一。賢帝ポップ。地上に在りし頃は大魔道士と呼ばれ、比類なき魔力を持ち、魔界の誰もが思いつかなかった方法で、魔界に光と安息をもたらした者。
双帝の二。剣帝ダイ。地上に在りし頃は勇者と呼ばれ、比類なき戦闘力を持ち、敵対者を端から斬り伏せ、常にポップの傍らにあり彼の覇道に協力する者。
さて、その双帝であるが、今日も執務や征伐に明け暮れている…のかと思いきや、なんと地上に姿を現していた。
無論これは正式な訪問ではない。
魔界に住まう臣下たちにも、地上に残っている仲間たちにも何も告げていない、正真正銘のお忍びというやつである。
熱帯の植物に囲まれた草地で、ふたりは空を見上げていた。
「久しぶりに地上に来たってぇのに夜とは、タイミング悪りぃなぁ」
「まぁまぁポップ、今日はちょうど満月みたいだし、星もいっぱい見えるし、これはこれでオレはいいと思うけど」
熱帯の湿度を過分に含んだ風が、ふたりを煽る。
「それに、明るすぎても逆に落ち着かないんじゃない?」
「ま、それはそーだな…人目にもつきやすくなるし」
煌々と輝く月を見つめて、ポップは眼を眇めた。
「…じゃ、とっとと行きますか! 世界一周旅行!」
「オッケー! 最初はどこにする?」
「そりゃー決まってんだろ、昔辿った通りさ!」
言うなりふたりの身体を、ルーラの魔法力が包み込んだ。
光は一路、ネイル村を目指す。
ネイル村を皮切りに、ふたりはロモス、パプニカ、ベンガーナ、テラン、カール…と思い出の地を巡っていった。
各地に勇者一行の(というより勇者と大魔道士の)像がここぞとばかりに建てられまくっていることには少々辟易したものの、復興こそすれ大きく変化していることはなく、ふたりは思い出話に花を咲かせつつそっと各地から立ち去った。
そして最後はランカークスから少し離れたところに位置するあの村、ポップとダイが束の間の同居生活を営んだ思い出深い村にふたりは訪れた。
「…ここを出てもう10年も経つんだな」
村の外れに今もぽつねんと立っている小さな掘っ立て小屋を前にして、ポップはひとりごちた。
「ここを出て行った時は、ポップと一緒に魔界統一をすることになるなんて正直思いもしなかったよ」
ダイもつられて呟くが、後に続いたポップの言葉に思わず眼を見開いた。
「…オレは、決めてたぜ」
「えっ」
「オレは、決めてた。魔界統一とかそんなモンはあんときゃ考えてもなかったけど、ぜってーダイと一緒にい続けてやるってそれだけは決めてた」
「ポップ…」
「ダイ、わかんないか? オレが昔も今も、どんだけお前を必要としてるか」
10年前、ダイがポップに別れのキスを与えた場所で、今ポップがダイにキスをする。長く熱く、希うキスを。
「ポップ…オレ、自惚れていいんだよね? ポップの幸せはオレの傍にしかないって、そう思ってていいんだよね?」
「今さら何言ってやがる、ばぁか」
暗黙の合意。
きしむドアをそっと開けて、ふたりは小屋に転がり込んだ。
積み上がった埃が舞い散るのを意にも介せず、ダイとポップは互いの首筋に顔を埋めあう。
羽織っていたマントを敷布代わりに脱ぎ散らして、ダイはポップを組み敷いた。
経年相応に劣化した床が小さく悲鳴を上げる。
既に興奮しつつあるポップの未だ衣服に包まれた裸身を、ダイはキスとともに優しく暴いていく。
肉付きの薄い、胸板。
無駄なく引き締まった下腹部。
そして膨張し始めた生殖器。
10年の間ですっかり覚えてしまったその身体に、ダイは無骨な指と舌を這い回らせた。
どこをどう触れば快楽が増すのか、お互い口にしなくてももうわかっている。
ポップもまた、寄り添う熱に近づこうとダイが纏う衣服をもどかしく剥ぎ取っていく。
逞しい肩を露出させるなり唇を寄せ、柔らかく歯を立てる。
我慢の限界だったのか、ダイの手に扱かれて、白濁した汁がポップから零れ落ちた。
精を漏らす瞬間の赤らむポップが可愛らしくて、つい浮かんだ微かな笑みをダイは噛み殺したが、どうやらポップの耳には届いてしまっていたらしい。
猥らにはだけた服の合間に潜り込んでダイの一物を掴み出すと、仕返しとばかりにポップはそれを自身の口腔に招き入れたのである。
ざらついた舌が、ダイの敏感な部分を丹念に舐めあげていく。
荒れていく吐息と共に膨れあがったそれを、ポップが食む。
たまらずダイはポップの喉へと第一陣の精を解き放った。
その瞬間ダイの耳に届いたのは、溢れんばかりの液を嚥下する音だったか、ポップの満足げな笑声だったか。
そんなものはもうどうでもよかった。
濡れて艶かしさを増したポップの唇に再度ダイは口付ける。
もっと蕩けあいたい。
絡み合う視線だけで、意思疎通は十分だった。
仰向けになったポップが開いた肢をダイが捧げ持つように押し広げ、ポップの本来そういう用途のために作られたのではない器官を露わにする。
そしてダイは先走りの汁に塗れた指をそっとそこに差し込んだ。
ポップの身体は最初こそ反射でびくりと震えたが、ダイを受け入れることには既に慣れている。
やわやわと弄っているうちに程なく硬直は解かれ、ポップには期待による恍惚が、ダイの指先には貪欲に咥え込もうとするポップの柔らかな感触が与えられた。
ダイは指を引き抜くと、ポップの腰を持ち上げて、今度はいきり立つ自身をそこにあてがった。
質量も熱量も指とは段違いの代物を押し挿れられ、ポップは呻きともつかない嬌声を漏らす。
繋がった箇所が熱い。
何度も繰り返してきた行為だけれども、熱くて、熱くて、蕩けてしまいそう。
お互いから直接的に与えられる官能的な刺激と脈動。
きしきしと鳴る床の音をBGMに、ふたりは暫しの一体感に没頭した。
オルガスムスに達し、朝の光が窓から差し込んでくるまで。
「いけねっ、もう朝だよポップ!」
朝日の到来に気づいたダイが、彼の腕の中で力尽きていたポップを揺さぶり起こす。
「う…え……まじで?」
いかにここが村外れの廃屋で、ポップのかつての住まいだったとはいえ、人が動き出す時間になってまで居座っているのはさすがに拙い。
それに、一夜の時を過ごしたということは、魔界の側にも遠からず活動時間がやってくるということである。
彼らは就寝を装って、魔界の仲間が寝静まった頃を見計らって今回の外出を果たしたのだ。
この所業が彼らに露見しようものなら、今後の活動に支障を来たすことは必定だろう。
陽光で埃がきらきらと瞬く中、ふたりは大慌てで後始末と帰り仕度を始めた。
こびりついたあれやこれやにはとりあえず目を瞑って、着衣を整える。
白んでよれたマントをはたいて誤魔化す。
「くっそー、最後は秘湯でさっぱり☆ってプランだったはずなのに…! どうしてこうなった!」
「まぁまぁ、ちゃんとポップの念願の太陽は見られたから良かったじゃない」
「ぜってーリベンジな! 10年後!」
ぎぃぎぃ喚くポップの肩を抱いて、ダイはルーラで魔界への通用口へと向かう。
10年目にして叶えられたふたりのハネムーンは、騒がしく終わりを告げようとしていた。
END
あとがき。
…なんか、新婚旅行物を書きたかったはずなのに…どうしてこうなった!
熟年夫婦化しているからか?! そうなのか?!!
……「残」本編がラヴ度かなり薄めだったので、一応これは愛情フォローSSだということで…(^q^)
Written by HAZUMI Kyoka
2010/02/16 Upload