Eine kleine Nachtgespräch

あの日飛び出したのは間違いじゃなかったと、確信を持って言う。
たとえこの先に待ち受けるのが死に限りなく近い世界であっても。
あいつと一緒なら、それも悪くない。


それは、旅を始めてまだ間もない頃のこと。
「ねぇポップ」
「なんだよ」
後に世界最強と謳われることになるふたりの少年は、今日もまた足の踏み場のない小部屋でひとつベッドに寄り添いあって、他愛もない話に興じていた。
ちなみにふたりの名誉のため一応補足しておくと、足の踏み場がないのは安宿の手狭なシングルルームをシェアして使っているためにふたり分の荷物 ─剣やら鎧やら外套の類やら─ を置くとどれだけ秩序立てて並べても床がいっぱいになってしまうからで、決して彼らが散らかし放題にしているわけではない。
「さっき食べたすっごくおいしかったやつ、あれ何ていうの?」
「…あぁ、お前がひとりでばくばく食っちまった奴な……ってお前、知らずに食ってたのかよ?!」
「だっておいしかったんだもん」
あまりに正直で、悪びれる様子もないダイの返答に、ポップは肩をすくめた。
でも自分が、ダイのこのしょうがないくらい真っ直ぐなところに惹かれているのも事実で。
ポップは軽く微笑うと、世間知らずな弟弟子に教えてやることにした。
「あれは"あけび"っつって、この辺じゃ3本の指に入るくれぇうまいって評判の果物なんだぜ?」
「…"あけび"? 何かヘンな名前だなぁ」
「おまーなぁ……でも、なかなかイケんだろ?」
「うん」
ダイは思わず即答したものの、そこでようやくあることに気が付いた。
恐る恐る、推察を口にしてみる。
「…あ、もしかしてポップも好きだった?アレ」
「まぁな」
ポップのそっけない返答に、ダイはさっきまでの美味しいものを食べて浮き足立った気分もどこへやら、途端に狼狽した。
おいしかったし、ポップもマァムも文句ひとつ言わなかったからひとりで全部平らげてしまったけど、まさかポップも好きな食べ物だったとは。
「ご、ごごごごめんねポップ! おれ、そんなこと知らなくって全部食べちゃって…あ、明日また食べよう! そしたら今度はちゃんとポップの分も残すからさっ!」
「明日は早くにここを出るって、さっき言ったばっかだろーが。ま、別にそう珍しいモンでもねーし、また来た時にでも食やいいんじゃねーの?」
慌てふためくダイの頭をくしゃりと撫で、ポップはただ笑んでいた。


「あけび…この戦いが終わったらさ、ふたりで食べに行こう?」
唐突にダイが切り出した。
「…なんだよ急に」
ゆったりとしたツインルーム。ふたりは並べられたベッドの片一方に乗っかって、また話をしている。
王宮の客間に泊まった時や金銭的に余裕があってふたり分のベッドが確保できた時であっても、ダイとポップは時折こうしてひとつのベッドを分け合って夜を過ごしていた。
「平和になったら、あけびよりもっといいモン食い放題だぜ?」
お前は本当に欲がねぇな、とポップは一笑に付したが、ダイの眼差しは真剣そのものだった。
「そうかもしれないけど、おれはポップとまたあそこに行ってあけびが食べたいの! いいだろ?」
…まるでだだっこである。
とても明日には敵の本拠・死の大地へと乗り込もうとしている者たちの会話とは思えない。
死の大地はその名の通り最も死に近い場所であるが、ふたりからは不思議と悲壮感や緊張感といったものは感じられなかった。
「しょーがねぇな、じゃ、世間知らずの勇者様にいっちょ付き合ってやるとしますかね」
ふたりは声を立てて笑った。

  だいじょうぶ。
  だってこいつは優しいし臆病なとこがあるけどすっごく強くて頼りになるから。

  心配ねぇさ。
  だってこいつはおれなんかより断然強い最強のちびっこなんだから。

こいつとならどこまでも行ける、そんな気がする。
そしてふたりはいつの間にか、頬寄せ合ったまま眠りこけていた。
END

あとがきっぽいもの。

「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」ならぬ「アイネ・クライネ・ナハトゲシュプレーヒ」。ドイツ語でタイトルつけてみましたが、用法・発音があってるかどうかは不明。ちなみにNachtgesprächは造語です。(Nacht[夜] + Gespräch[話]。aウムラウトが文字化けしてたらごめん)
つうかあけびがダイ大世界にあるのかなんて考えちゃいけません。
美味しいのかどうかすら霸澄は知りません(まて)。
たまにはほのぼのしたのが書きたかったのよ…
余談ですがイメージソングはスピッツの「運命の人」でした。
Written by HAZUMI Kyoka
2005/04/03 upload