チョコのお味はいかが?
お姫様のチョコ
バレンタインがやってきた。
女性達にとっては、年に一度の大イベント。
いままで(王族ということもあって)無縁だったこのイベントも、
今年のレオナには無縁ではない。
大魔王バーンとの戦いから5年。
あの日から行方がわからなくなってしまっていたダイが帰ってきてくれたのだ。
5年という年月を経て、見違えるほどに成長して帰って来たレオナの愛しい勇者様。
そんな彼の為にチョコレートをあげたいというのだから、
やはり王族といえどレオナも女の子なのである。
…という訳でその日、レオナは公務のノルマを午前中に−しかも完璧に−片付け、
1人厨房に篭りだしたのだ。
と、そこまでは良かった。
だが、考えてみればレオナは生まれついての姫君で。
厨房になど、一度も立った事がなかったのだ。
「…どうしよう」
チョコって確か溶かして固めるだけよねぇ?
本を見て調べてみたら、思いの外簡単な事が書いてあったから
誰にも助けを求めなかったのに。
ここで今、うごうごと蠢いている物体は何なのかしら?
(私は普通にチョコを溶かして固めようとしただけなのに)
そりゃあ溶かすのにかなり手間取ったし、
早く固めるためにちょっと工夫をした…けれど…。
(まずかったかしら、やっぱり)
流石にこんなチョコはあげられない。
そう思ったレオナは、その蠢く元チョコレートを無言で始末した。
でも。
「もう時間が無いのよねぇ…」
最初のあのチョコに大分手間取ってしまって、もう夜も深い。
今からでは今日中には無理だ。
(こんな事なら、最初から変な見栄はらないでマリン達に手伝ってもらえば良かった)
とは思っても後の祭。後悔先に立たず、である。
(どうして文字で書いてあると簡単なように見えちゃうのかしらって
ああもうそんなこと考えてる時間なんてないのよレオナ)
兎に角ダイくんにチョコを。
そして手作りはあげられなくとも、せめてこの5年間もの間温めたおいた
彼への想いを一緒に伝えられる方法を。
(だって私の部屋にあるお茶菓子のチョコを持って行って説明しても、絶対わかってくれないもの)
そう思いながら、良い術を探してレオナの頭は今までに得た知識をフル回転させる。
今まで読んできた本から人から聞いた話まで、ありとあらゆる記憶を掘り返し…
…そして辿り着いたのは昔、余暇を見つけては読み進めていた恋愛小説。
昔は内容がベタすぎるとか何だとかと散々心の中でむず痒い思いをして読んでいたが、
まさか、こんな処で頼るハメになろうとは。
「…でも、今はそのベタさに頼るしかないわ…」
そのアイディアに顔が火照っていくような感覚もあったが、これしかない。
…女は度胸。
そんな言葉を心の内でそっと呟き、レオナはドレスの裾を颯爽と翻して歩き出した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
…キィ。
扉の開くその微かな音を、ダイの鋭い聴覚は聴き逃さなかった。
(誰だろう、こんな遅くに)
今日、ポップはヒュンケルと出かけてしまっている。
だが、ダイの知る限りでこんな夜も深まってきた時間に現れる
見知った人間は彼一人ぐらいなものだ。
…と、いうことは。
(…敵?)
魔界で倒してきたものの残党が、まだ残っていたのか?それとも…
ふと、喉元まで出かかってきた嫌な考えをダイは無理矢理飲み込む。
そして近付いてくる何者かの呼吸に自分の呼吸を合わせ、
即座に戦えるよう、低く身構える。
…だが、近付いて来る気配には殺気など無く、
落ち着いてその気配を探ってみればそれはダイのよく知る存在。
「…レオナ?」
そう、それはダイにとっては1番に大切な、愛しい愛しいお姫様。
そのお姫様が夜も深いというのに今、自分の目の前にいる。
但し、黙り込んだまま。
「ど…どうしたんだよ、レオナ?こんな夜遅くに…しかも、1人で」
無意識に早鐘を打つ心臓の音がレオナに聞こえてしまうんじゃないか。
それも心配だったが、先程からレオナが黙り込んだままというのも気になる。
(おれ、何かレオナを怒らせちゃった?)
…そんな事も頭に浮かんできたが、レオナの気配は怒ってなんかいない。
「レオナ?」
黙り込んで、俯いたままのレオナ。一体どうしたのだろう。
すると、レオナの小さな手が小さく手招きをする。
今既に充分レオナの傍にいるので、それが『屈んでくれ』という
ジェスチャーである事にダイはすぐ気がついた。
素直に膝を曲げて、レオナの視線に近い所まで視線を持っていく。
…昔は自分がレオナにこうしてもらってたのに、今は違って不思議だ。
(レオナって、こんなに小さかった?)
そんな事まで考えてしまう。
そうしていると、ダイが素直に屈んでくれたのを確認できたのか、
レオナが俯いた顔を持ち上げ始める。
ふわん、と一瞬甘い香りがしたのは、ダイの気のせいだったか?
否。
…ちゅ。
気のせいでは、無い。
微かだけれど、でも甘い。これは…チョコレート?
「…お、遅くなっちゃったけど、バレンタインの…チョコよ」
普段しゃきしゃきと喋るレオナからは想像もつかない程にどもりながら、
やっとの事でそれだけを言うと恥ずかしくなったのか、レオナはぷいっとそっぽを向いてしまう。
バレンタイン。そういえばポップが言っていた。
今日は好きな人、大事な人に女の子がチョコを渡す日なんだと。
まあ最近はもうあんまりあげる側の性別関係無かったりするけどな、
とも言っていたがそれはひとまず置いといて。
すっかり忘れていた。
…というか、レオナは毎日忙しそうで縁がなさそう、だなんて1人勝手に考えていたので
あんまり興味が湧かなかったから、すぐに記憶から滑り落としてしまっていた。
でも、レオナはこうやってちゃんと用意してくれたのだ。
しかも、こんな可愛らしいキスにのせて。
「ありがとう、レオナ。おれ、おれすっごく嬉しいよ?」
そう言ってにっこり笑ってお礼を言うと、ますますレオナは赤くなってしまう。
(レオナってかわいい)
何時もは凛としていて綺麗という言葉の方が似合うレオナが、
自分の前ではこんなに可愛い姿になっている。
それが何だか嬉しくて、こそばゆい。
恥ずかしさの限界を超え、真っ赤になってしまったレオナをダイは優しく抱き上げる。
まるで、親が子供を抱っこしてあげるかのように。
それにしても昔とは違って、今は何とレオナの軽く、小さい事か。
「ねぇレオナ」
「…な、なぁに?」
平常心を取り戻そうと、極めて何時ものような態度をとろうとするレオナに向かって
ダイは昔から何一つ変わらない、純粋な笑みを浮かべる。
ごめんね、レオナ。おれ、もうちょっとかわいいレオナを見ていたいんだ。
「さっきの、軽くて味が薄かったから、もう一度しよ?」
END
あとがき。
何だろう、甘いっつうのもあるんですが。
この5年後ダイ君、随分と攻めっぷり激しいな。
いやうちの5年後とかの成長したダイ君はこんな子なんですけどね。
↑とりあえず、お前原作読みなおしてこい?
無理ですね、本編終了後はオフィなもの無いんで妄想まみれですよ。
特にダイレオナのネタは5年後設定もの多いし(5年後どころか以下略)。
ていうか、今回チョコレートキスなネタばっかりじゃん…。
いい加減このネタばかりしつこく使ってんなよ、と言われてしまいそうだ…。
ま、まあでもジャンル違うし、全部のバレンタインSS読む人もいなかろう…。
そこに至るまでの展開はちゃんと違ってるし!
Written by HAYANO Nene